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2025年7月31日 | コラム

STRAW-R 標準読み書きスクリーニング検査とは?発達性ディスレクシアの早期発見




STRAW-R 改訂版標準読み書きスクリーニング検査について解説します。

STRAW-R 改訂版標準読み書きスクリーニング検査とは

STRAW-RStandardized Test for Reading and Writing – Revised)は、日本語の読み書き能力を総合的に評価するために開発された標準化された検査です。特に、読み書きに困難を抱える可能性のある子どもたち(発達性ディスレクシアを含む)を早期に発見し、適切な支援につなげることを目的としています。

 

■検査の概要

STRAW-Rは、主に就学前から小学校高学年までの児童を対象としていますが、読み書きに課題のある成人にも適用可能です。学校の教員や専門家(心理士、言語聴覚士、特別支援教育士など)が個別に行い、約3060分程度で実施されます。

この検査は、単に「読めるか」「書けるか」だけでなく、読み書きのメカニズムに関わる複数の側面を多角的に評価します。

 

■測定しているもの

STRAW-Rは、読み書きに必要な以下の主要な要素を測定しています。

  1. 音韻認識能力(おんいん にんしき のうりょく):
    • 言葉の音のまとまり(音韻)を認識し、操作する能力です。例えば、「りんご」という言葉が「り」「ん」「ご」という音でできていることを理解したり、音を入れ替えたりする能力などです。読み書きの基礎となる非常に重要な能力です。
  2. 文字の知識・読み:
    • ひらがな、カタカナ、漢字の正確な知識と、それらを単独で、あるいは単語として正確に読み取る能力を評価します。音読の流暢さも含まれます。
  3. 書字能力:
    • ひらがな、カタカナ、漢字を正確に書き取る能力です。文字の形、書き順、誤字脱字の有無などが評価されます。
  4. 語彙力・理解力:
    • 言葉の意味を理解し、適切に使う能力、そして読んだ内容を理解する能力も間接的に評価されます。
  5. 視覚性短期記憶・聴覚性短期記憶:
    • 目で見た情報や耳で聞いた情報を一時的に記憶し、保持する能力です。これらは、文章を読んだり、聞いたことを書き取ったりする際に不可欠な能力です。

■受検の意義

STRAW-Rを受検する意義は、主に以下の点が挙げられます。

  • 早期発見と早期支援: 読み書きに困難を示す子どもを早期に発見することで、学習のつまずきが本格化する前に適切な支援を開始できます。これにより、子どもの自信喪失や二次的な不適応を防ぐことができます。
  • 個別最適な支援計画の策定: 検査結果は、その子が読み書きのどの側面に困難を抱えているのかを具体的に示します。これにより、一人ひとりの特性に合わせた効果的な指導や支援計画を立てることが可能になります。
  • 保護者への情報提供: 検査結果を通して、保護者は子どもの読み書きの状況について客観的な情報を得ることができます。これにより、家庭での学習支援や学校との連携がスムーズになります。
  • 専門家間の共通理解: 検査結果は標準化されているため、専門家間で子どもの状況を共通の尺度で理解し、情報共有を円滑に進めることができます。

 

■何がわかるか

STRAW-Rを受検することで、以下の点が明らかになります。

  • 読み書きの全体的な習熟度: 同年齢の子どもたちと比較して、その子の読み書き能力がどの程度の水準にあるのかがわかります。
  • 困難の具体的な側面: 「文字を読むのが苦手なのか」「文字を書くのが苦手なのか」「音の認識に課題があるのか」など、読み書きのどの部分で困難が生じているのか、その特性が詳細にわかります。
  • 発達性ディスレクシアの可能性: 検査結果は、発達性ディスレクシア(読み書きの特異な学習障害)の可能性を判断するための重要な情報となります。
  • 強みと弱み: 読み書きに関連する様々な能力の中で、得意なことと苦手なことが明確になります。
  • 今後の支援の方向性: 検査結果に基づいて、個別指導の内容や学習環境の調整など、具体的な支援の方向性を検討するための手がかりが得られます。

 

STRAW-Rは、読み書きに困難を抱える子どもたちが、それぞれの力を最大限に伸ばし、学習をスムーズに進めるための重要なツールと言えます。

 

読み書き困難を早期発見することの意義は?

読み書き困難を早期発見することの意義は、大きく分けて以下の3点です。

  1. 学習のつまずきと二次的な問題の予防:
    • 読み書きは、学校での学習の基礎となるスキルです。このスキルにつまずきがあると、国語だけでなく、算数や理科、社会など、他の教科の学習にも大きな影響が出ます。例えば、問題文が読めない、自分の考えを文章で表現できない、といった状況が生じます。
    • 早期に困難を発見し、適切な支援を行うことで、学習の遅れが深刻化するのを防ぎ、学業不振による自信喪失や自己肯定感の低下、学校への不適応(不登校など)といった二次的な問題の発生を予防できます。
  2. 個別最適な支援の提供と効果の最大化:
    • 読み書き困難の原因や特性は、子どもによって様々です。早期に検査などを用いてその子の困難の具体的な側面(例:音韻認識の課題、視覚的な情報処理の課題など)を特定することで、その子に最も適した個別指導や学習方法、環境調整などの支援計画を立てることができます。
    • 支援は早期に開始するほど、子どもの発達段階に合わせた柔軟な対応が可能となり、効果も高まりやすいとされています。脳の発達が著しい時期に適切な働きかけを行うことで、困難を克服したり、その影響を最小限に抑えたりする可能性が高まります。
  3. 子どもの心理的負担の軽減と自己肯定感の維持:
    • 読み書きが苦手な子どもは、「自分はできない子だ」「努力が足りない」などと誤解され、自分自身を責めてしまうことがあります。また、周囲からの理解が得られず、孤立感を感じることもあります。
    • 早期に「これは努力不足ではなく、読み書きの特性によるものだ」ということを本人や周囲が理解することで、子どもの心理的負担が軽減されます。適切な支援を受けることで、「自分にもできる」という成功体験を積み重ねることができ、自己肯定感を維持し、学習意欲を向上させることにつながります。

 

これらの点から、読み書き困難の早期発見は、子どもの健全な発達と学習、そして将来の社会生活において非常に重要な意味を持ちます。そして、支援や指導は一律の方法ではなく、アセスメント(STRAW-Rなどの検査を含む)で得られた情報に基づき、強みを活かしつつ弱みを補うアプローチが求められます。アセスメントから得られた情報は、担任の先生や特別支援教育コーディネーターと共有することで、学校での合理的配慮や個別の指導計画書の作成にも役立てることができます。

検査を希望される際は、学校の先生や教育センター、専門機関(医療機関等)にご相談下さい。



臨床心理士 / 公認心理師 井上 操

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