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2025年9月2日 | コラム

Rey複雑図形検査とは?発達障害、学習障害、認知症の評価



Rey複雑図形検査(Rey-Osterrieth Complex Figure Test:ROCFT)は、Rey(1941)によって開発され、Osterrieth(1944)により標準化された神経心理検査です。この検査は、複雑な幾何学的図形を用いて、視空間認知能力、構成能力、記憶機能を総合的に評価する代表的な神経心理学的アセスメントツールです。
検査は主に3つの段階から構成されています。まず被検者に複雑図形を見せながら模写させる「模写課題」、次に図形を見せずに記憶で描かせる「直後再生課題」、そして一定時間経過後に再び記憶で描かせる「遅延再生課題」を実施します。
対象年齢は一般的に6歳以上から成人まで幅広く適用可能で、発達障害、学習障害、認知症、脳損傷などの様々な神経心理学的問題の評価に用いられています。検査時間は約30分程度で、比較的短時間で多面的な認知機能を評価できる特徴があります。

Rey複雑図形を受けるべき理由

①学術的な理由

Rey複雑図形検査は、認知神経科学の分野で長年にわたり蓄積された豊富な研究データに基づいており、その信頼性と妥当性が国際的に確立されています。この検査により、右脳機能、特に頭頂葉や側頭葉の機能状態を客観的に評価することが可能です。
また、視空間認知、構成能力、作業記憶、エピソード記憶など、複数の認知ドメインを同時に測定できるため、認知機能プロファイルの包括的な理解に貢献します。学術研究においても、様々な疾患群での認知機能特性を明らかにする際の標準的評価法として広く採用されています。

②臨床的な理由

臨床現場では、発達障害や学習障害の診断・評価において、Rey複雑図形検査は重要な判断材料となります。
さらに、認知症の早期発見や病型診断、脳外傷後の認知機能評価、精神疾患における認知機能障害の程度評価など、幅広い臨床場面で活用されています。検査結果は治療方針の決定や支援計画の立案に直接的に寄与し、エビデンスに基づいた個別化された介入を可能にします。

Rey複雑図形を受けることで分かること

Rey複雑図形検査を通じて、以下の認知機能について詳細な情報を得ることができます。

視空間認知能力では、空間的関係の理解、図形の全体構造の把握、部分と全体の統合能力を評価できます。これにより、地図の読解、図形問題の理解、空間的推論能力の程度が明らかになります。
構成能力については、計画性、組織化能力、実行機能の状態を把握できます。描画の順序や方略から、問題解決のアプローチの特徴や効率性を理解することが可能です。
記憶機能では、視覚的記憶、長期記憶の機能状態を評価できます。特に、符号化、保持、検索の各プロセスにおける個人の特性や困難さを特定することができます。

Rey複雑図形を受けることで対策できること

①学習面での具体的対策

検査結果に基づいて、個々の認知特性に応じた学習支援を提供することができます。視空間認知に困難がある場合は、図表やグラフの読み取り練習、立体図形の理解を促す教材の使用、空間関係を意識した学習環境の整備などを行います。
構成能力に課題がある場合は、段階的な課題分解、視覚的手がかりの提供、組織化スキルの指導などを通じて、複雑な課題への取り組み方を改善できます。また、記憶機能の特性に応じて、視覚的記憶法の活用、反復学習の最適化、記憶方略の指導などを実施します。

②日常生活での困り事への対策

検査で明らかになった認知特性を踏まえて、日常生活での具体的な支援策を提案できます。空間認知に困難がある場合は、物の配置の整理法、視覚的手がかりの活用方法などをアドバイスします。

③個別支援計画の作成

Rey複雑図形検査の結果は、個別支援計画(IEP)や個別指導計画の作成において、科学的根拠に基づいた目標設定と支援方法の選択を可能にします。認知プロファイルの強みと弱みを明確にすることで、強みを活用した学習方法の提案や、弱みを補完する支援ツールの導入が適切に行えます。
また、支援の優先順位を決定する際の客観的指標としても活用でき、限られたリソースを最も効果的に配分することが可能になります。定期的な検査の実施により、支援の効果を定量的に評価し、計画の修正や改善も行えます。

④早期介入による学習支援

発達期における早期の認知機能評価により、将来的な学習困難を予防または軽減する介入を早期に開始できます。幼児期や学童期早期での検査実施により、認知発達の特徴を把握し、適切な刺激環境の提供や発達を促す活動の導入が可能になります。
早期介入では、遊びや日常活動を通じた自然な形での認知機能の向上を図ることができ、後の学習困難の程度を軽減する効果が期待できます。また、保護者や教育者への適切な情報提供により、一貫した支援体制の構築も可能になります。

まとめ

Rey複雑図形検査は、視空間認知、構成能力、記憶機能を包括的に評価する優れた神経心理検査です。豊富な研究蓄積に基づく信頼性の高い評価ツールとして、発達障害、学習障害、認知症など様々な状況での認知機能アセスメントに広く活用されています。
検査結果から得られる詳細な認知プロファイルは、個人の特性に応じた具体的な学習支援や日常生活での対策立案を可能にします。早期の評価と適切な介入により、認知機能の特性を理解し、それに基づいた個別化された支援を提供することで、学習や生活の質の向上を図ることができます。Rey複雑図形検査は、単なる診断ツールではなく、個人の認知的特徴を理解し、その人らしい学びや生活を支援するための重要な情報源として位置づけることができます。専門家による適切な実施と解釈のもとで活用することにより、その真価を発揮する検査といえるでしょう。


臨床心理士 / 公認心理師 井上 操

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